島根県の奥地 弥栄町「やさか共同農場」を訪問してきました
2024.9.16
2021年11月13日(土)毎年恒例の収穫感謝祭「オーガニックライブ」を開催しました。オーガニックライブは、ビオ・マルシェが主催する、生産者と消費者をつなぐイベントです。
今年は、4か所の生産者を紹介しオンラインで配信しました。その一つとして、ビオ・マルシェスタッフが、和歌山県の蒼生舎を訪問。いきいきと過ごす鶏たちの様子とともに、農場長の今村さんに養鶏のお話を伺いました。
蒼生舎があるのは、和歌山県有田郡。集落からどんどん山を登り、狭く険しい道を進みます。
周りに人がほとんど住んでいない山奥に、蒼生舎の養鶏場はあります。
到着すると、農場長の今村さんが笑顔で出迎えて下さいました。
左:農場長の今村さん、右:ビオ・マルシェスタッフ
有機農業をしたいと思い、この地に来た今村さん。動物を飼い、動物の糞を田畑の堆肥にして作物を育て、出荷できなかった作物は動物に与えるという「循環」が可能な「有畜農業」を目指し、養鶏を始めました。1984年に創業し、養鶏を始めて今年で38年になります。
さっそく、鶏たちが過ごしている鶏舎をご案内いただきました。いくつもの鶏舎がずらっと並んでいます。
この地に来た当時は、電気も通っていない、家もない、茅の草だらけだったこの場所で自分たちで鶏舎を手作りするところからスタートしたそうです。
「鶏舎に使われている丸太も、山にある間伐材をみんなで引きに行って、一から作りました。建築作業は初めてのことで、最初はどうなってしまうんだろうと全く様子が分からず、釘を打つのも苦労したんです」と、今村さんは当時を振り返ります。そんな手作りの鶏舎ですが、40年近くになる今でも壊れていない、立派な鶏舎です。
鶏舎の中では、鶏たちがのびのびと動き回って過ごしていました。
水を飲んだり、えさを食べたり、休んでいたり。蒼生舎では、平飼いで飼育をしています。現在、飼育している鶏は約3,500~3,600羽。鶏舎一部屋につき115羽です。鶏が心地よい環境を考え、一部屋で飼う数を増やしたり減らしたり調整しながら、今の115羽にたどり着いたとのこと。
蒼生舎と同じ面積で比べると、大規模養鶏場(ケージ飼い)の方が、鶏を5倍近くも多く飼育できるそうですが、ケージ飼いにしようと思ったことは一度もなかったと今村さん。「ケージ飼いは効率的ではあるけれど、鶏は卵を産む道具ではないですよね。生きている間は元気で、心身ともに健やかに過ごしてほしい。だから、動物の生理にあった居心地の良い環境を作るということをまず考えて、動物を飼いたいと思っていた」と話します。
部屋の中にいる白くて大きな鶏は、オス鶏です。1割以上オスを入れると、有精卵(温めると卵を産む可能性を持った卵)と呼べますが、蒼生舎のオスの数は有精卵の基準と呼べる数ではないそうです。蒼生舎では、メスの群れを落ち着かせるためにオスを入れています。オスは、何かあったときに鳴いて危険を知らせたり、えさをメス鶏に先に食べさせてから食べるなどの動き方をするそうです。オスを入れるのも、「動物の生理にあった居心地の良い環境をつくる」ということに繋がっています。
一般的に鶏は、1日に約1個卵を産みますが、産卵量は季節や気温などに大きく影響を受けます。人間と同じで、過ごしやすい気候の時は産卵率が安定していますが、寒さ・暑さが厳しい時や台風の後などには、産卵量が減るそうです。
「人が心地よいって感じる時は鶏も心地よい、ちょっとしんどいなって思う時には鶏もやっぱりしんどいみたい」と今村さんは話します。
以前大きな台風が来たときは、鶏もかなりのストレスを感じていたようで、産卵率が15%ほど減少したそうです。健康な鶏から良い卵が産まれると考え、鶏たちが元気に過ごせるように環境や餌を工夫しています。
次に、パック詰めをする作業場をご案内いただきました。1日300パック程度を2名で行っています。汚れがついているものは、洗卵機を使わず手作業で磨いていきます。
年を取った鶏の卵は大きく、若い鶏の卵は小さいとのこと。大・小ばらつきがある卵をバランスよく詰めていきます。他の作業なども重なると思うように進まず、夜遅くまで行うこともあるそうです。機械化しているところと比べるとかなりの重労働ですが、手作業で一つ一つ愛情込めて詰めていきます。
また、蒼生舎さんといえば、いつも卵と一緒に入っている「たまご通信」。今村さん直筆のメッセージです。これを楽しみにしているお客様も多く、お返事の手紙も時々来るとのこと。お客様の声は、今村さんの励みになっているそうです。
今村さん直筆のたまご通信
蒼生舎の卵はレモンイエローの黄身が特徴です。
左:蒼生舎の卵、右:市販の卵
一般的な赤みが強い卵は、パプリカなどから抽出する色素を与えている場合もあります。色素の抽出方法には化学物質が使われている場合もあるため、蒼生舎では鶏に色素は与えていません。
また、鶏たちが元気に過ごせる環境を整え、鶏の体に良いものを与えることを一番に考えているため、遺伝子組み換えの飼料は使っていません。その安全性に疑問があるからです。トウモロコシ、魚粉、緑餌(草や野菜)、カルシウムなど必要なものだけを与えています。
遺伝子組換えでない穀物を使うと飼料のコストは高くなるため、経営のことを考えると大変ですが、創業当時から「鶏の健康を第一に考え、安心安全なものをお客様にお届けしたい」という気持ちは変わらず、餌の配合を日々研究しています。
遺伝子組み換えの飼料や色素は、もともとはなかったもの。それらを与えるということに疑問を抱き、「最初にやっていたことを変わらず、そのままやりたかっただけのこと」と今村さん。
安さや効率を求めるのではなく、愛情を持って鶏たちを育てる今村さんの想いが伝わってきました。
今回特別に、今村さん特製の卵焼きを作っていただきました。ふわふわの卵焼きがものの数分で完成。
卵のほんのりとした甘みがしっかり感じられる卵焼きでした。蒼生舎で健やかに育った鶏の卵はは全くくさみがなく、何個でも食べたくなる美味しさです。
蒼生舎を訪れ、生き物を相手にしている養鶏の難しさを改めて感じました。今村さんは、「卵は蒼生舎が作っているのではなく鶏が産んでいるんです。そのことを分かっていてほしい。」と力強くお話しされていました。きれいにパックに詰められて当たり前のように届く卵ですが、鶏達が元気に卵を産んでくれていることや、その卵を届けてくださっている蒼生舎さんがいることに感謝して、これからも大切に食べたいなと感じました。
11月23日に配信したオーガニックライブの様子は、YouTubeでご覧いただけます。
記事では紹介しきれなかった今村さんのお話しや、鶏たちがいきいきと過ごす様子をぜひ動画でご覧ください。