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フレンチ一つ星・大土橋シェフ、島根県・木次乳業を訪問

フレンチ一つ星・大土橋シェフとともに、11月、島根県にある「木次乳業」を訪れました。木次乳業は、自然豊かな奥出雲地域にあり、斐伊川(ひいかわ)流域に点在する酪農家から原料乳を仕入れて、牛乳やチーズなどの乳製品を製造しています。

 

創業当時は、周囲の理解を得るために奮闘

営業を統括されている加納さんに、木次乳業が1960年代に創業した頃のお話を聞きました。

当時、飼育していた牛に水田のあぜ草を与えていたところ、次々と病気になってしまったとのこと。そのときは農薬を使う稲作が普及した頃だったため、あぜ草に農薬が付着したのではないかと考え、周辺の農家さんや酪農家さんに農薬の使用を控えるように説得に回ったのですが、変わり者扱いで相手にされず、大変苦労したそうです。

その後、農薬汚染のない野草を主体とする飼育法に切り替えてみたところ、牛たちは健康を取り戻しました。この試みがきっかけとなり、よりはっきりと農薬の危険性を訴えることができるようになり、徐々に周囲の理解も得られるようになりました。

木次乳業の代名詞でもあるパスチャライズ製法についても、今でこそ認知されるようになりましたが、当時はまだ安全性が疑問視されていました。そこで、創業者自ら1年以上飲み続けながら改良を重ね、ようやく発売にこぎつけました。

発売当時から全く変わっていない、赤と黄色のパッケージ(太陽と土をイメージ)も、当時は食品としてどちらの色もタブーだったため、パッケージだけ見て断わる得意先もあったそうです。

 

手作業を大切に、丁寧に作られる乳製品

事務所に隣接している工場をご案内いただきます。午前9時半頃、ちょうど酪農家さんから生乳を輸送しているトラックが到着したところでした。毎日朝と夕方に2回搾乳していて、1日に約18トンが届くそうです。

製造ラインでは、学校給食向けの商品を製造している最中でした。最近は紙パックが主流になりましたが、今でも牛乳瓶を使っている学校もあるそうです。

続いてチーズの製造現場です。

職人さんがモッツアレラチーズを作っています。大半の工程が手作業なので大量生産はできないものの、1つ1つ丁寧に製造している様子が良くわかります。

大土橋シェフも、職人さんへ製造方法について細かく質問しており、作り手のこだわりに納得した様子。

地下の熟成室を案内していただきました。

カマンベールは出荷まで約3週間熟成しており、それまでは一定の温度と湿度を保っています。出荷後は、最初はあっさりと固く、段々と刺激的な風味になります。木次乳業では、熟成度合いで味の違いを楽しむことをおすすめしています。

ちなみにシェフがかつて働いていたお店で様々なチーズをワゴン形式で提供していたときは、熟成度による味の違いにこだわるお客様が多く、提供するタイミングの見極めが難しかったそうです。

 

事務所に戻り、牛乳とチーズを試食させていただきました。

乳製品は、一般的には穀物を多く与えると乳脂肪分が高くなり、価値も高くなると言われています。そのため、あえて穀物を多く与える飼育方法も多いですが、木次乳業では自然に近い形で飼育することを大切にしているため、乳脂肪を意図的に高めることはしていません。

チーズは、製法や水分量によって固さや風味が異なります。シェフも、それぞれの味や香りの違いを実感している様子。ブラウンスイス牛は見た目が茶色いので濃厚な味をイメージしますが、牛乳の味は意外とあっさりしていることに驚いていました。これは、牛の運動量が多いことが理由だそうです。

 

地元産のぶどうを使ったワイナリーも経営

牧場の前に、「奥出雲葡萄園」を訪れました。

ワイナリーを経営している安部さんにご案内いただきます。安部さんは、木次乳業の元従業員。ワイナリーができたきっかけは、創業者が地元奥出雲で有機栽培のぶどうを作り始めたとき、「ぶどうを作るなら、ぜひワインも作ろう」という話になったことだそう。

ワインは昭和60年頃から作り始め、試行錯誤を続けながら、その土地に合った製造方法を追求しています。山葡萄由来の「小公子」という銘柄は、年間3,000本が販売初日に完売するほどの人気商品です。

自然に近い環境でのびのび育つ牛たち

続いて、「ダムの見える牧場」です。

こちらではホルスタイン種を飼育していて、牛は牛舎と放牧地を自由に行き来できるようになっています。訪れた時も、牛が山の斜面で草を食べていて、通常の飼育方法との違いが感じられました。

最後にブラウンスイス種を飼育している「日登牧場」を訪れました。

こちらの牧場でも、牛が牛舎と急斜面の山間部を自由に行き来できるようになっています。

子牛は生まれて数ヶ月は隔離されますが、6ヶ月~10歳くらいまでの牛は共同生活をしています。牧場を管理している成瀬さんにお話を聞くと、大人の牛と共同生活をすることで、崖の登り方や、餌の食べ方などの生き方を学ぶそうです。放牧している牛は、なんと1日に60キロの草を食べ、60リットルも水を飲むそうです。

ここでは約90頭を飼育していますが、成瀬さんはそれぞれの牛の性格や体調などを全て把握しているとのこと。餌も含めて自然に近い飼育方法なので、臭いはほとんど気になりません。大土橋シェフも過去に訪れた牛舎との臭いの違いに驚いていました。

訪問を終えた大土橋シェフ。「木次乳業の皆さんの自社製品に対する想いや知識、酪農家さんとの関係性、そしてお客様の声をしっかりと受けとめている姿にプロフェッショナルを感じた。牧場、ワイナリーもその土地に合った形で飼育、栽培されている。直接現地を訪れ、見て、話して、その想いを感じ、それを価値のあるお食事として提供することが自分の使命だと考えている。」と次回のレシピが楽しみな言葉をいただきました。

木次乳業の乳製品を使ったオリジナルレシピは、2025年3月ごろに公開予定です。どうぞお楽しみに。

Tales from Organic Farm フレンチ一つ星 大土橋シェフとビオ・マルシェの有機野菜

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