
フレンチ一つ星・大土橋シェフ、やさか共同農場(島根県)を訪問
2025.6.2
2月、フレンチ一つ星・大土橋シェフとともに、有機柑橘の生産者・中原観光農園(広島県)を訪れました。農園がある大崎上島は竹原港からフェリーで30分程の距離で、瀬戸内海の真ん中にある島です。訪れた日は風が少し強かったものの、冬晴れのなか、瀬戸内海の素晴らしい島の景色がフェリーから見ることができました。
「中原観光農園」代表の中原さんにお話をお伺いしました。
中原さん:
元々、両親が大崎上島で農業をしていたのですが、35年程前に母親が農薬アレルギーになったことがきっかけで、無農薬での栽培を始めました。その後、私が家業を引き継ぎ、その時の栽培面積は1.2haくらいでした。現在では、7haくらいに拡大しており、年間収穫量は約100トンとなっています。有機JASは2005年に取得しました。
近年の異常気象に加えて、除草など有機栽培ならではの難しさについて説明いただきました。
中原さん:
瀬戸内海の島は降水量が少ないうえ、平地も少ないため、野菜の栽培には向いていません。それで、この地域は柑橘畑が多いのですが、圃場の大半が段々畑なので、有機栽培特有の除草がとても大変です。
また、ここ10年で気温が上がり、夏にも雨が降らなくなり、ゲリラ豪雨も増えました。みかん、不知火、甘夏とそれぞれで収穫の時期が違うことで糖度が変わります。柑橘は品種によって必要な水の量が変わるため、栽培が非常に難しくなったと感じます。そんな環境ですが、1度でも糖度を上げて美味しい柑橘を栽培したいと思っています。
早速圃場を見学させていただきます。
まずは、レモン。年々生産面積を増やし、それに伴い収量も増えてきました。夏季のかん水作業の徹底により、今年も順調に生育したそうです。例年は3月下旬に収穫を終了しますが、今年は、「木への負担を減らすため」に、早めに収穫したそうです。倉庫には収穫済のレモンがたくさん貯蔵されています。
中原さん、「柑橘は、野菜と違って、一度木をだめにしてしまって植え替えするとしたら、元の状態の収穫量に戻るのは約10年後です。なので、果実も大事ですが、それ以上に木のことを考えてあげないといけないんです」とのこと。大土橋シェフも柑橘ならではの難しさに共感していました。
続いて、「ゴールデン文旦」。
熊本では「パール柑」と言われる柑橘です。本来花が5月に咲くのですが、今年は暑さの影響なのか1月に咲いてしまったとのこと。3月中旬頃に収穫し、糖度は18度程度です。
早速、試食させていただきました。収穫までもう少し期間があるのですが、実がつぶつぶしており、十分甘い状態でした。大土橋シェフも香りの強さに驚いています。中原さんもお気に入りの柑橘の一つだそうです。
続いて堆肥について説明いただきました。
中原さんは堆肥のうち95%を島の物を使っています。メインはしいたけの菌床ブロックで、それに山林のチップ、海岸の海藻や貝殻を使用しています。3~4年に1回、表面20センチ程に堆肥を与え、あとは自然にまかせているそうです。土はとてもふかふかしており、中原さんが地元の資源を大切に活用されている様子がうかがえました。
中原観光農園ではオリーブオイルも製造しており、原料となるオリーブの木も見せていただきました。
現在3品種を栽培しており、収穫後、即搾油することで風味のしっかり残るオイルを、丁寧に製造されています。大土橋シェフもこれまでのレシピで使った経験から、「とてもマイルドでオーソドックスな味つけなので、例えば飲食店向けにとがった味付けにチャレンジしてみてはいかがでしょうか?シェフはアレンジして使うので、多少値段が高くても、一般的なオリーブオイルと違った味付けであればニーズはあると思います」とのことで、中原さんも新たな可能性に関心を示されていました。
車で移動し、ネーブルやブラッドオレンジを栽培している圃場を案内していただきました。
こちらの圃場は島の東側となり、対岸には愛媛県の島々が見えています。今年はヒヨドリという鳥の被害がとてもひどく、本来の収穫期まで待っていると全滅してしまう恐れもあったため、急いで収穫されたそうです。
畑にはヒヨドリの被害にあった柑橘の残骸が多数見られ、改めて栽培の難しさを実感しました。
また、国産では非常に希少なアボカドも栽培していて、大土橋シェフも、珍しいアボカドの木や葉の匂いや手触りに興味を示していました。
最後に、中原さんの幼馴染がご夫婦で始められた、「MICHISHIO BREWING 」という大崎上島で初めてのクラフトビール醸造所に立ち寄りました。こちらの醸造所では、中原さんのレモンなど大崎上島産の原材料を使い、全て手作業で丁寧に製造しています。
大土橋シェフ、「野菜ももちろんそうですが、柑橘は収穫が年に1回で、木も大事にしないといけないため、改めてオーガニックで栽培することの難しさを感じました。それでもオーガニックにこだわって栽培される、中原さんを始め生産者の方の思いを料理で表現できればと思います」と締めくくられました。