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有機栽培では、どのような堆肥や肥料を使いますか?

土づくりや肥料にこだわった有機栽培では、どのような堆肥や肥料を使っているのでしょうか。この記事では、有機栽培で使われる堆肥や肥料について、有機JASの条文に沿って、ビオ・マルシェの契約農家の事例とともにご紹介します。

肥料に関して、「有機農作物の日本農林規格」(有機JAS法)の第2条で、下記のような記載があります。

農業の自然循環機能の維持増進を図るため、化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避けることを基本として、土壌の性質に由来する農地の生産力(きのこ類の生産にあっては農林産物に由来する生産力、スプラウト類の生産にあっては種子に由来する生産力を含む。)を発揮させるとともに、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培管理方法を採用したほ場において生産すること。

出典:有機農作物の日本農林規格第2条(1)

この条文にあるように、有機栽培では、化学的に合成された肥料をできるだけ使わずに栽培します。では、なぜ「化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避ける」必要があるのでしょうか?

化学肥料とは?そのメリット・デメリットとは?

化学肥料は、土の種類や微生物の働きなどの影響をほとんど受けず、作物に直接作用するため、必要な時にすぐに効くという利点があります。しかし、その土壌にすむ微生物の餌にならないため、微生物が少なくなってしまいます。さらに、微生物を餌としているミミズなどの生物も暮らせない環境をつくってしまうのです。
そのような環境になった土は固くなり、保水性がなくなった土、やせた土地とも呼ばれ、植物の育たない土地となります。やせた土地は、雨が降ると土砂が流れ出るので自然災害につながる、とも言われています。

有機栽培では土づくりが大事

⑪耕起(露地)横

一方、化学肥料を使わない有機農業では、どのように作物を栽培するのでしょうか。

よく例えられるのが、山林です。山林の樹木は、化学肥料を与えなくても生長しています。野菜作りの理想の土は、山の腐葉土です。土から木が育ち、葉や枝が地面に落ちて分解されて肥料となります。この自然のサイクルを再現するために堆肥を土にすきこみます。

堆肥は、田畑で育った稲わら、もみ殻、野菜の葉やつる、茎をはじめ、落ち葉、樹皮(バーク)、おがくず、家畜の糞などを分解・熟成させて作ります。炭素を多く含む植物性のものは、分解・熟成に時間を要するため、ここで分解・熟成を促進させるために、窒素分として油粕や米ぬか等を使うこともあります。

そうすることで土に空気が入り、微生物が活発に動いて畑の周りの生態系が回復し、ふかふかのベットの様な土ができあがります。

すべての農業の原点にある「土づくり」。土づくりが大事という考え方は、土中の微生物や生き物を生かすことであり、そこから発する地域の生態系を守ることにつながります。健康な土づくりができてこそ、農薬も化学肥料も必要がない有機栽培を続けることができるのです。

有機栽培で使われる肥料とは?

小原営農センターぼかし肥料

有機栽培で使う肥料については、有機農産物の日本農林規格(有機JAS法)の別表1の肥料及び土壌改良資材(製造工程において合成された物質が添加されていないもの及びその原材料の生産段階において組み換えDNA技術が用いられていないもの)に限り使用することと定められています。
出典:有機農作物の日本農林規格第4条ほ場における肥培管理

これらの肥料は、有機物を原料としています。畑に与えたものは土壌中にいる微生物が分解し、それを作物が養分として吸収します。化学肥料に比べて即効性は無いものの持続性があり、土壌中の微生物の餌となるため、土壌中の生物多様性を育てることにつながります。「作物に与えるのではなく、作物が育っている土の微生物に与えている」と話す人もいます。

肥料を購入するときは、購入先から原材料や製造工程の情報を入手しなくてはなりません。これは自家製肥料用の資材についても同様で、入手先から情報をもらう必要があります。有機JAS規格に定められた内容のものか、製造工程において化学的に合成された物質が添加されていないかを確認します。そして、原則として、登録認定機関の確認を受けてから使うことになっています。
一つ一つの資材を個別に確認するので、生産者にとっては非常に手間のかかる作業です。しかし、これらは有機JASの大切な約束の一つで、私たち消費者の安心にもつながっています。

ぼかし肥料について

有機栽培では、ぼかし肥料がよく使われます。
ぼかし肥料とは、数種類の有機物を混ぜ、微生物によって分解・発酵させた肥料のこと。

発酵前の有機物は作物の栄養となるまで時間がかかるという点があります。また、有機物を直接田畑に撒くと、土壌の病原菌を増やし、病気の発生原因となってしまったり、土の中で有機物が発酵し、発酵熱によって作物の根が傷んでしまうなどの問題があります。

ぼかし肥料は、有機物をあらかじめ発酵させておくことで、それらの問題を克服することができます。

有機契約農家さんの事例をご紹介

ビオ・マルシェの有機契約農家は全国各地にあり、さまざまな有機野菜や果物を育てています。それぞれの風土や植物の特性に合わせて使われる、オリジナルの堆肥や肥料について事例を紹介します。

熊本県 肥後あゆみの会

肥後あゆみの会

栽培品目:有機トマト、有機塩ミニトマト、有機みかん、有機不知火 他

天恵緑汁

タケノコ・ヨモギ・アケビ、海草やトマトの脇芽などを摘み取り、それらを黒糖と混ぜて、天恵緑汁という天然エキスを抽出します。(使う材料は、時期によって異なります。)
タケノコ・ヨモギ・アケビなどは生命力が強い植物といわれています。トマトの脇芽も生長する先端であり、生長の力が集まっている場所です。そんな力のある植物から抽出した天然エキスは、いわば力水。水でうすめて作物に散布すると、体力や免疫力がつき、病気にかかりにくい健康で元気な作物が育ちます。

肥後あゆみの会天恵緑汁
肥後あゆみの会 天恵緑汁

自家製ぼかし肥料

肥後あゆみの会の自家製ぼかし肥料は、油粕や米ぬか、カニ殻、赤土、菜種油粕、魚粉、昆布粉末などを混ぜて発酵させて作ります。窒素分は多くなれば収穫量が増えますが、病害虫の発生も増えます。結果的に品質も悪くなってしまいます。澤村さんの経験数値として、植物に必要な成分を配合するようにしています。

ぼかし肥料③

発酵し完成したぼかし肥料

野草堆肥

野草堆肥は、河原に生えた野草を堆積し、数年かけて微生物に分解させて、土の状態にしたものです。微生物によって分解された野草堆肥は、微生物の塊りのようなもの。畑に与えると、土壌中の微生物が活発に動きます。それにより、土の中の生態系が保たれ、作物にとって良い環境が出来上がります。

野草堆肥④肥後あゆみ会
野草堆肥(肥後あゆみの会)

野草が分解された様子

肥後あゆみの会 澤村さんより
以前は、病害虫の被害や一定の作物を続けて栽培することで発生する障害などに悩まされることが多くありました。この野草堆肥を使用してから、病害虫の被害に悩まされることが減りました。

大阪府能勢町 原田ふぁーむ

原田ファーム

栽培品目:有機米(コシヒカリ)、有機黒豆枝豆、有機トマト、有機ほうれん草 他

自家製ぼかし肥料

原田ふぁーむで作る自家製ぼかし肥料は、自社で栽培する有機米の米ぬかと、菜種油粕を混ぜて作っています。出来上がり状態によっては、自社で栽培する有機米のもみ殻やもみ殻燻炭を混ぜる場合もあります。

米ぬか(原田ふぁーむ)
もみ殻(原田ふぁーむ)
もみ殻燻炭(原田ふぁーむ)
ぼかし肥料(原田ふぁーむ)

写真 左上:米ぬか、右上:もみ殻、
左下:もみ殻燻炭、右下:完成したぼかし肥料

原田ふぁーむ 荒木さんより
以前は材料として動物性のものも使っていました。しかし、養分のうち過剰に残ってしまう成分もあり、現在はなるべく土壌に残される養分のバランスも考えて、植物性を主体とした原料に変更しています。また、地域資源を大切にし、地域でできたものはなるべくその地域に還元させる資源循環を考え、自社でできた有機米の米ぬかやもみ殻を使っています。

長野県 吉沢文隆さん

吉沢さん

栽培品目:有機キャベツ、有機ズッキーニ、有機トマト、有機カリフラワー 他

もみ殻としめじの廃菌床

吉沢さんの作る堆肥は、もみ殻としめじの廃菌床を使います。これらを堆肥舎と呼ばれる小屋で水と一緒に撹拌します。発酵の状態をみながら、最低でも半年は堆積させて、オリジナルの自家製堆肥を作っています。

吉沢さん堆肥
吉沢さん堆肥

植物は微生物が分解した物質を栄養として吸収し生長します。吉沢さんが作る堆肥のもみ殻は微生物の餌となる炭素分を多く含んでおり、廃菌床の主原料であるおが屑には、微生物の活動を活発化させる効果があるといわれています。
これらをうまく組み合わせて堆肥にし、畑にまくことで肥沃な土壌ができあがります。また、もみ殻や廃菌床は近隣の方からいただいたものを使い、地域資源を有効活用しています。

富山県 小原営農センター

小原営農センター

栽培品目:有機うるち米(コシヒカリ・日本晴)、有機もち米(新大正糯・カグラモチ)他

土づくり

ビオ・マルシェの有機米を栽培している小原営農センターでは、収穫後の稲わらを肥料として活用しています。ただし、田んぼにそのまますきこんでも分解されず、翌年のお米の栽培に悪い影響を与えてしまいます。そのため、稲わらを分解する微生物の働きを促すため、発酵鶏糞や牛糞堆肥を使って窒素分を補います。

発酵鶏糞は、鶏糞のみを発酵させたもの。牛糞堆肥は、牛糞とおが屑、籾殻を混ぜて堆肥にしたものです。これらはリン酸や加里の成分を含んでおり、稲の生長にも活躍する成分です。翌年のお米作りは、収穫後からすでに始まっています。

ぼかし肥料

数種類の材料を発酵させるために、土着菌を近隣の竹林から採取しています。これに、餌となる米ぬかを混ぜ、菌を増殖させます。温度があがってきて、香ばしい香りがしてきたら、ムラがでないように何度も切り返します。そして、種菌が完成します。次に、米ぬか、粉砕した屑大豆、油粕、魚粕、カニ殻など、成分バランスを考えて配合し、種菌と混ぜ合わせます。発酵度合いを調整しながら1カ月ぐらいで完成します。

ぼかし肥料①小原営農センター(編集後)

生産者の創意工夫で成り立つ、化学肥料に頼らない有機栽培

4か所の生産者の事例をご紹介しました。それぞれの生産者が、工夫を重ね、知恵を絞りその土地や品目にあった土づくりや肥料づくりをしています。その積み重ねが、生態系を維持しつつ環境にあった有機栽培を続けていくことに繋がっています。そして、オーガニックを選択するという私たち一人ひとりの行動も、有機農業の普及、ひいては豊かな自然環境を未来に残すことにつながります。

今回ご紹介した以外にも、ビオ・マルシェには300件以上の有機契約農家がいます。ビオ・マルシェは今後も、お客様と生産者と共に支えあい、有機農業の普及に取り組んでいきます。

 

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