有機栽培では、どのような堆肥や肥料を使いますか?
2022.2.7
2001年に有機JAS法が施行されてから約20年、お店でも有機JASマークの入った野菜を見かけることも多くなりました。とはいえ、農家さんがどのようなプロセスで有機JAS認証を取得しているかについては、なかなかイメージが湧かないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回の記事では、ビオ・マルシェの生産者・株式会社すずめファーム(京都)にご協力いただき、有機JAS認証取得までの道のりについて具体的にご紹介します。有機JAS認証取得は農地の確保・書類の準備など労力やコストはかかりますが、すずめファームにとっては強みになっているとのこと。環境にやさしい農業の証明になったり、取り組みを応援してもらえる消費者・企業・行政と繋がりをもてたりと、認証取得前にはなかったメリットについてもお話いただきました。
すずめファームは山に囲まれた京都の亀岡盆地で、京野菜をメインに有機栽培に取り組む有機農家です。代表取締役の上柿さんがIT企業を脱サラし、2017年に友人とともに創業しました。さらに、2020年に有機JAS認証を新規取得しています。ビオ・マルシェの宅配では、昨年から有機カンコンサイ(空心菜)を出荷いただいています。
上柿さんと有機カンコンサイ(空心菜)の苗
有機農業に転身した理由や有機JAS認証取得までの道のりについて、上柿さんにインタビューさせていただきました。
私たちが農業をしている町、京都府・亀岡市が「世界に誇れる環境先進都市」を理念として掲げまちづくりをしていることがきっかけです。亀岡市は平成30年12月に、亀岡プラスチックごみゼロ宣言を掲げました。市民や事業者の環境に対する意識も高く、環境分野での取り組みを先駆けて実践している町です。すずめファームは亀岡市の農業の担い手として事業をスタートさせた経緯があるので、地域環境を守る取り組みを積極的に実践したいと常日頃から考えていました。そこで、「私たちも農業分野で、まちづくりに貢献できることは何かないか」という想いから有機JAS認証取得への取り組みがはじまりました。
苦労したのは、有機栽培に適した農地を探すことでした。
有機JAS認証を取得する場合、禁止された農薬・化学肥料を2年(多年生の場合は3年)以上使っていない農地を確保する必要があります。それに加えて、近隣の畑からドリフト被害(農薬の意図しない飛散)のない畑や用水路から農薬の流入がないか等、近隣の生産者に理解を得ながら土地探しをする必要がありました。当時はまだ新規就農者ということで、農業の実績も少なく、地主さんに優良な土地を貸してもらえるほど交渉力がありませんでした。
そのため、まずは農業を本気で取り組んでいる姿を地元の方に見て頂き、農業技術と実力がついてきた段階で農地の借り入れの交渉を改めることに決めました。そうすることで、徐々に地元の生産者の方とも知り合いになる機会が増えました。さらに、地主さんとの土地借入交渉に協力してくださる地元の方とも巡り合うことができました。そこからは、有機栽培に適した農地の確保が順調に進みました。
すずめファームの畑
新規で有機JAS認証を取得する場合は、有機講習会の受講が必須です。この講習会で有機JASのルールを学び、質疑応答等で理解を深めます。受講すると、自社農場が有機JASに適合するためにするべきことや課題点が見つかります。
すずめファームの場合は、使っている堆肥が有機JASに適合しているか確認が必要になりました。
堆肥のメーカーから成分表・製法等の資料を取り寄せ、認証機関に確認してもらうことで適合確認がとれました。
新規の認証申請では、申請する圃場全ての詳細な情報(過去3年間の栽培履歴、圃場の場所・水口の場所・周辺地図等)の提出が必要になります。それに加えて、組織図・生産工程管理担当者・内部規定の策定等の情報も求められます。すべて記入するのは時間がかかりますが、認証機関にサポートしていただけます。
私たちの場合は、資料作成に1週間、認証機関との確認のやりとりに1週間。合計2週間で完成しました。
認証申請書類に不備がないか認証機関にチェックして頂きます。
認証申請書類の情報を元に、実地検査が行われます。書類と現場(運用等)に相違がないか、実際に圃場を見ながら聞き取りが行われます。
すずめファームの場合は、約3時間の検査が行われました。書類で提出した圃場全てを回り、書類と相違が無いか、水口の位置なども含めて確認が行われました。新規取得業者ということもあり、今後必要になってくる帳簿類(格付記録・出荷記録等)のサンプルデータ等も見せて頂き、実例を交えて運用方法を指導していただきました。
実地検査の結果を受けて、改善点等を書面にて報告頂きました。
申請書類と実地検査の結果から、判定結果を受け取ります。
合格判定を受けたので、有機JAS認定証が発行されます。
ここで初めて有機JASシールの貼り付けをして野菜の販売ができます。ただ、シールは認証機関に作って頂けるわけではなく、自分で作成(サイズ、色、記載内容)しなければなりません。また、その内容に問題が無いかを認証機関にチェックしてOKをもらう必要があります。
私たちは、認証機関に頂いたサンプルデータを編集して完成させました。
すずめファームの有機JASシール
地元の生産者と同じ認証機関(オーガニック認証センター)を選びました。その方が生産者の方と情報交換できるメリットもあると思いました。
有機栽培に取り組みはじめてから、生産者側の視点ではなく野菜側の視点で栽培管理を考えるようになりました。慣行栽培の場合は虫や病気になれば農薬に頼っていましたが、有機栽培ではそれができません。そのため、野菜にできる限りストレスを与えない栽培を考えるようになりました。栽培品目に適した土づくり、小まめな虫取りと草引き等をすることで、外部環境からの被害を最小限に抑えます。その結果、生産者都合の栽培ではなく野菜都合の栽培ができるようになり、自ずと生産技術も上がってきたと感じています。
有機JAS認証は、対外的にすずめファームの営農方針を説明する際に役立っています。農薬や化学肥料などの化学物質に頼らない環境にやさしい農業をしている証明になるからです。そのおかげで、私たちの取り組みを応援して頂ける消費者・企業・行政と繋がりをもてたことが一番のメリットです。地元の消費者の皆様からは直接有機野菜を購入したいというお問い合わせをたくさん頂けるようになりました。また、ビオ・マルシェさんでの販売がスタートしたことで新たな販路を拡大できました。2021年5月からは亀岡市の保育園に有機野菜を提供させて頂く等、各方面で広がりをみせています。
すずめファームの有機野菜を広めていただけることが非常に嬉しいです。消費者の皆様に私たちの野菜を食べて頂く機会が増えたことで、地元亀岡市の美しい環境を守ることにも手助け頂いているという感覚をもっています。有機野菜を食べたい・応援したいという消費者の皆様がいることで、生産者は安心して有機栽培に取り組むことができます。すずめファームはビオ・マルシェの宅配での販売を通して、このような消費者・販売者・生産者の輪がさらに広がっていくことを期待しています。
今回はすずめファームの実例から、有機JAS認証取得までの道のりについてお伝えしました。
数ある中の一例でしたが、有機JAS認証を取得される生産者の方々は上柿さんたちと同じように、それぞれに熱い想いをもってます。しかし、いざ出荷をしようとした際に「出荷先が無い」という声をよく耳にします。せっかく有機JAS認証として栽培しても、それを売買できないと、生業として続けることはできません。有機農業を広げるには、生産と販売は両輪。生産者の方が安心して有機栽培に取り組めるようになってこそ、日本の有機農地を広げていくことができる。そのような環境を整えられるように、より多くのお客様に有機農産物をお届けすることが私たちビオ・マルシェの宅配の使命であり役割だと改めて感じさせられました。