受付終了【東京】「有機北里八雲牛のおはなし&国産有機牛のスペ...
2024.9.9
2024年10月26日(土)、ビオ・マルシェの宅配の会員様と生産者をつなげるイベント「有機北里八雲牛のおはなし&国産有機牛のスペシャルランチ」を開催しました。
会場は、中目黒のフレンチ1つ星レストラン「クラフタル」です。シェフの大土橋真也さんには、長年にわたりビオ・マルシェのレシピを作成していただいています。シェフが5年前の企画で八雲牧場を訪れていたご縁もあり、今回、有機北里八雲牛を使ったスペシャルランチをご考案いただくことになりました。
講座の担当は、オーガニックグラスフェッドビーフのパイオニア、北里大学獣医学部講師の小笠原 英毅(おがさわら ひでき)先生です。
小笠原先生は、もともとは組織学・解剖学が専門で、20年前に博士号を取得後、2008年に飛び込んだ牧場ではじめて牛の生産から販売までを経験されたといいます。
その後、2009年に肉用牛として日本で初めて有機JAS認証を取得。有機JASだけではなく、飼料は牧草のみ。さらにその牧草までも農薬や化学肥料を使わず農場内で自給するという、全く新しい発想を取り入れた畜産を展開されています。
生産から販売においても、苦労の連続だったそうですが、ここ数年で状況も変わり、ようやく認知が深まり、全国各地から問い合わせや、取り組みを始めようとする動きが出てきているそうです。
小笠原先生が、最近いつも考え続けていることは、「何のために牛を、誰のために牛肉を生産しているのか?」ということ。「これまでの取り組みについてはいくら時間があっても語りつくせない」と、汗をタオルで拭きながら熱心に語っていただきました。
八雲牧場で飼育されている有機北里八雲牛は、オーガニックグラスフェッドビーフです。
有機JAS基準を満たし、夏期は放牧で放牧草のみ、冬期はグラスサイレージ(牧草を乳酸発酵させたもの)を給与する飼育方法です。脂肪分が少なく、健康に良いとされるオメガ3などの脂肪酸の割合が高くヘルシーな赤身肉が特徴です(※1)。また、「環境問題」「食料自給率」「経済性」「アニマルウェルフェア」など日本が抱える畜産の課題が解決できることや、持続可能な地球環境への意識の高まりなどにより注目されています。
一方、とうもろこしや小麦などの穀物を飼料として育てられている牛は、グレインフェッドビーフと呼ばれます。穀物飼料はカロリーが高く、牛舎の中で運動をせず飼育するため、より早く効率的に太らせることができるそうです。脂肪分が多く柔らかい霜降り肉など、国産の畜産は主に、この飼育方法で育てられているとのこと。
ここで、注意しておきたいことは、オーガニックビーフだからといってグラスフェッドビーフとは限らない、ということです。
私たちの食生活にかかせない畜産。畜産業は、空気や水、土壌など、多くの資源に依存しているため、環境負荷をかけずに維持していくことが求められています。実際に、畜産が抱えている問題について教えていただきました。
最も深刻だと言われているのは、環境問題だそうです。家畜から出る糞尿が蓄積し、川や海の水質汚染を引き起こします。また、牛がゲップをした際に発生するメタンガスも地球温暖化の原因とされているのだとか。海外輸入飼料を給与するとその糞尿は国内に留まり、堆肥としての供給バランスが過剰となってしまうそうですが、飼料自体を自給する八雲牧場では家畜から出る糞尿を堆肥化し、全て草地に適正量散布するため、牧場外へ糞尿が流れ出る可能性が低いとのこと。海外飼料を輸送することは輸送コスト(環境負荷)もあるため、飼料を自給すること自体、環境に負荷をかけずにすむということですね。
日本の牛肉の自給率は45%。輸入飼料による生産相当分を考慮すると、わずか12%だともいわれているそうです。私たちも食べられる穀物(お米、とうもろこしなど)を牛に与えるため、食料が競合してしまいます。
八雲牧場の有機北里八雲牛は、牧場内の私たちが食事で摂取できない牧草のみで育つので、食糧自給率への影響はないとのこと。グラスフェッドビーフを選ぶと、食料自給率を上げられる可能性があることがわかりました。
ここ最近は、ウクライナ侵攻などが原因で起こった、(肥料や飼料である)穀物の価格高騰化が問題となっています。「いま、日本の畜産農家の多くは、国の補助がなければ経営が破綻してしまうような状況です。」と小笠原先生。
八雲牧場では、牧草には肥料は一切使われておらず、家畜の排泄物が土に還って、土と排泄物を養分として牧草が育っているそうです。また、肥料の代わりに植えているマメ科のクローバーは、窒素固定の役割を果たし(※2)、イネ科の牧草がよく育つそうです。そして、肥料は自家堆肥のみで飼料にも輸入穀物を一切使わないため、肥料や飼料の価格高騰の影響を受けない「安定的で持続可能な畜産方式」だ、と教えていただきました。
次に有機JAS認証の牛と一般の牛との違いについて、伺いました。有機JAS認証の詳細について説明すると短時間の講座では収まらない内容になってしまうため、主要な違いを簡単に教わりました。
有機牛
・飼料への化学肥料や農薬の使用 / なし
(ただし、使用が許可されているものはある)
・飼養スペースの制限 / あり
(1頭あたり5㎡以上を確保)
・予防のための抗生物質の使用 / なし
(熱や病気の際は使用あり)
飼養管理の他、屠畜場、加工場で有機JAS認証基準をクリア(審査を受けなければ)していなければ、有機牛肉として出荷はされない。
一般の牛
・飼料への化学肥料や農薬の使用 / あり
・飼養スペースの制限 / なし
・予防のための抗生物質の使用 / あり
最近になり、ようやく注目されるようになったオーガニックグラスフェッドビーフですが、一般の牛肉と比べると評価が低く、当初は全く売れませんでした。売れなかった一番の原因は、一般的な販売基準となる「格付け」です。格付けの基準にすると有機北里八雲牛はB2ランク、販売を始めた2010年頃は「固くて美味しくない」という理由から、ほとんど売れなかったと言います。
一般的な牛肉の格付け
一般的な牛肉の格付け(ランク分け)は、A5~C1まで、全部で15段階あります。重要なポイントは3つ、特に肉質による評価です。
脂肪がどれだけ入ったか
一般的な牛肉の価値は、脂肪が入れば入るほど高くなります。もちろん、赤身が悪いというわけではありません。赤身肉には機能性成分のカルニチン(脂肪燃焼やエネルギーへ変換する役割)が多く含まれているからです。放牧して運動をしている牛には、脂肪がつきにくいため、一般的な格付けでは評価が低くなります。
脂肪の色
脂肪の色にも評価があります。脂肪の色は、白ければ白いほど良いとされます。放牧牛の脂肪は、黄色です。色の由来はビタミンAの元となる、牧草由来のベータカロチンの沈着した色。牧草を食べれば食べるほど脂肪が黄色くなるため評価は低くなります。
肉の色
肉の色は、赤い色が鮮明であればあるほど、評価が高くなります。放牧をすればするほど、鉄分を多く含み筋に酸素を運搬するミオグロビン含量が高まり、色が赤黒っぽくなります。
現代の牛肉の評価基準では、有機北里八雲牛は全く評価されず値段が安くなってしまうため、一般市場では経済性の持続性が難しくなってしまいます。
有機北里八雲牛ロースの脂質の量はせいぜい10%程度。以前は、脂肪が多く柔らかい牛肉が好まれる傾向がありましたが、赤身肉に含まれている栄養素にも注目が集まっているそうです。
共役リノール酸
共役リノール酸という、抗がん作用や代謝を高め、脂肪を燃焼しやすい体づくりを助けてくれる大切な成分が、黒毛和種に比べて多く含まれていまれているそうです。
オメガ6、オメガ3
体内で合成ができない、オメガ3(牧草や魚に多く含まれる脂肪酸)とオメガ6などの必須脂肪酸。理想的なバランスは、オメガ3系が1:オメガ6系が4だと言われていて、割った比が4以下だと体に良いとされています。北里八雲牛の場合は4以下で、だいたい2くらいなので、オメガ3が一般牛肉と比較して多く含まれていると言えるそうです(※3)。
現在、国内でオーガニックビーフを生産できる場所は全部で7か所あるそうです。さらにオーガニックグラスフェッドビーフとなると、八雲牧場ともう1箇所の2箇所のみ。小笠原先生は、この取り組みを大学以外にも広げようと、道内でも活動を始められています。2017年に北海道オーガニックビーフ振興協議会を設立し、有機畜産の生産から販売までをサポートする会として活動を始められています(※4)。
今回、イベントにご参加いただいた方からは、「オーガニックグラスフェッドビーフを購入して、小笠原先生の取り組みを応援したい」「さらに詳しく話が聞きたい」という応援や励ましのメッセージをたくさんいただきました。
また、栄養価や健康効果だけでなく、環境問題や世界の食料問題の解決にもつながるということや、何より先生の情熱に、心を打たれました。持続可能(サステナブル)な畜産業のあり方について、理解を深める1日となり、ポジティブな気持ちでイベントを終えることができました。(スタッフ 岩井)
※1 北里八雲牛~草資源で生産・販売・研究する牛肉~ ,小笠原英毅. 食肉の科学 58(2). 151-157. 2017.
※2 Nitrogen Flow on an Organically Managed Beef Farm in Hokkaido, Japan. Hojito M, Adachi Y, Ono Y, Ogasawara H. Soil Science and Plant Nutrition. 62(5-6). 545-552. 2016.
※3 有機管理で生産される日本短角種の生理学的および骨格筋特性. 小笠原英毅. 畜産の情報 8月号. 69-82. 2023.
※4 国内肉用牛における有機畜産の現状と課題ー有機畜産を推進するためにー. 小笠原英毅. 北農. 90(3). 171-189. 2023.
小笠原 英毅先生(おがさわら ひでき)
北里大学獣医学部講師
最後に、当日のスペシャルランチコースをご紹介します。有機北里八雲牛づくしのメニューは、見た目も美しく有機野菜との相性もばっちりでした。
当日のメニュー
・有機北里八雲牛のダブルコンソメ
・有機北里八雲牛のパテアンクルート~季節の有機野菜のピクルス~
・有機北里八雲牛の2種のロースト
サーロイン(本わさびとりんごのドレッシング)
もも肉(西洋ワサビとマスタードソース)
・有機北里八雲牛のフレンチ風すき焼き~有機北里八雲牛のガーリックライス~
パテアンクルートは田舎風パテといわれ、豚肉で作り生地を巻く料理です。
有機北里八雲牛の挽肉がベース、コンビーフと平飼いたまごの他、玉ねぎ、にんにく、ブラウンマッシュルームごぼう、蓮根などが使われていました。しっかりと肉を練り上げて乳化するのがポイントです。そのまま焼いて、つくね風にするのもおすすめとのこと。隠し味として使ったのは、セミドライトマト。コンソメやパテに使うことで、単調な味に変化をもたらせる役割があるそうです。
サーロインとモモ肉は、2種類の部位と火入れを変えて食べ比べのお料理でした。
低温で時間をかけて火を入れたあとにフライパンで焼き上げられています。これは、細胞を壊さず美味しさを閉じ込める方法だそうです。サーロインは、ドリップがでると美味しい水分が抜けてしまうので、今回は解凍はせずに調理をしていて、手のひらを合わせて30秒ほど拝むようにして温めるイメージだそうです。焦がしバターでしゃぶしゃぶをするように火を入れをされたお料理でした。
フレンチ風のすきやきは、吟醸生しぼり醤油とダブルコンソメを通常の10倍に濃縮、イタリアのバルサミコ酢を煮詰めて作った割り下にお肉をくぐらせ、その下には焼肉に使う部位で作った贅沢なガーリックライスが敷き詰められていました。
どの素材も無駄にせずに使い切ることを念頭に置きながら料理をしました、というのもとても印象的でした。
大土橋 真也シェフ(おおつちはし しんや)
中目黒クラフタルシェフ
2015年に中目黒のフレンチ・レストラン「クラフタル」シェフに就任。
オープン後一年で「ミシュランガイド東京2017」一つ星を獲得。
ビオ・マルシェHPにて、ビオ・マルシェの食材を使ったオリジナル・レシピ記事「Tales From Organic Farm」を連載中。
ビオ・マルシェの宅配(会員制)にてご購入いただけます。定番商品の他に、スネ、タン、ホルモンなどの希少部位もウェブ限定商品で販売してます。
牧草型有機畜産のパイオニア。
持続可能な畜産を目指し、有機北里八雲牛を牧草だけで飼育。食用肉として日本初の有機JAS認証を取得。生産から販売、普及、持続可能な畜産の確立などが研究のテーマ。