「畑の恵み おせちセット2025」 オーガニックにこだわった...
2024.9.30
3月末、まだ雪が残る北海道南部・八雲町の「八雲牧場」を訪問しました。
八雲牧場は、国内で初めて肉用牛の有機JAS認証を取得した牧場で、北里大学が運営しています。北海道の南部に位置する牧場は、携帯電話の電波も途絶えてしまう、人里離れた静かな場所です。
現在、約400頭の牛を敷地面積370ha(東京ドーム約80個分)の場内で、飼育管理しています。(2023年3月時点)
今回は、八雲牧場が有機JAS認証を取得した理由をはじめ、有機北里八雲牛の生産方法、また飼育による肉質の違いなどを取材してきました。
牧場を案内していただいたのは、北里大学の小笠原先生です。有機北里八雲牛を育てながら研究し、有機牛の普及にも力を注がれています。この5年で増頭計画に成功し、年間約50頭だった出荷頭数が、2022年度は100頭以上まで増えました。
贈頭計画中に学生や牧場スタッフの皆さんと一緒に乗り越えてきた苦労や、今後の有機牛に対する想いとともに、お話を伺いました。
北里大学獣医学部附属フィールドサイエンスセンター 小笠原先生
目次
八雲牧場が牧草飼育を始めたのは1994年、2009年には有機JAS認証を取得しました。
牛に与える牧草は、八雲町の町営牧場と八雲牧場で育った有機牧草です。町の生産者の力も借りながら、自給飼料100%に取り組んでいます。
牧草か穀物かに関わらず、海外から飼料を輸入することは、環境にも負担がかかります。また、輸入穀物を与えて、排泄された糞尿を国外に戻すことなく、適切な処理をしないで国内に留めることは生態系を乱すことにも繋がります。
こういった環境への負荷を懸念して、八雲牧場では化学肥料や農薬を使わない自給飼料の有機牧草100%での飼育を選びました。
八雲牧場の牛たちは、夏は放牧地に生える牧草を自由に食べ、冬は夏の期間に刈り取った牧草を食べます。さらに、牛の排泄物を堆肥化し、肥料として牧草地に戻すことで、牧草を育てます。
牛舎で与えるグラスサイレージ
有機北里八雲牛のように「草だけを食べること」は、草食動物である牛にとって本来は自然なことです。
しかし、一般的に日本で肉用牛として育てられる牛には、トウモロコシや大豆などの穀物主体の飼料を与えることが多いです。穀物飼料は、牛が肥えるので肉にサシが入ります。また、母牛からの乳量も増えて子牛の飼育がしやすくなります。そのため、脂乗りのいい肉質や効率的な生産を目指す畜産方法では欠かせない飼料となっています。
有機畜産物においても、八雲牧場のような牧草飼育は必須条件ではありません。有機畜産飼料の基準では、「飼料の85%以上が有機飼料であること」と規定されています。そのため、有機JAS認証を取得している生産者のなかには、有機とうもろこしや有機醤油粕(有機醤油を搾った後に残る有機大豆と有機小麦の搾り粕)などを与えて牛を育てるところもあります。この取り組みは、搾り粕の廃棄ロスを無くし、有機飼料の活用に繋がる一つの事例でもあります。
こうした牧草飼育以外の選択肢もありますが、環境にも牛にも優しい資源循環型畜産の実現を目指して「有機北里八雲牛」は、100%有機牧草で育ててきました。その結果として、有機JAS認証の取得に至りました。
牛たちは、5月末~10月末頃まで放牧地で駆け回り自由に過ごし、冬の間は牛舎の中で過ごします。訪問した3月末は、まだ牛たちは牛舎の中にいました。といっても、柵に繋がれている状態ではなく、自由に動き回れるスペースを確保された牛舎でのんびりと過ごしていました。有機認証の基準では、家畜1頭あたりの広さが決められており、肉牛の場合は、1頭あたり5.0㎡の広さが必要とされています。
牛舎の中で集まって過ごす様子
それだけの広さがあっても、牛たちは群れて過ごすことを好むため、私たちが訪れた時は、牛舎の一部に集まっていました。それもまた、「牛の自然な姿」だと小笠原先生は話します。
自然に近い状態で育てている有機北里八雲牛は人慣れしていないのが特徴とのことで、それぞれの牛の個性が顕著に表れるようです。牛舎の裏側には、冬でも牛舎の外に出られるスペースも設けられており、1頭が外に出ると、続々と連なって出てくる様子も見られました。好奇心旺盛な牛や、警戒心の強い牛、あまり動きたがらない牛など様々です。
牛舎の外へ出てくる様子
冬場に与える飼料は、夏に刈り取った牧草をロール状にした「ロールラップサイレージ」と、牧草を貯蔵し発酵させて、より水分を多く含んだ「グラスサイレージ」があります。
積み上げられたロールラップサイレージ
牧草の種類についてご説明する小笠原先生
サイレージの中には多種類の牧草が混ざっていました。シロクローバーは栄養豊富で、三番草(刈り取り三回目の草)はたんぱく質が豊富など、刈り取る時期や種類で栄養価も異なるそうです。
牛の成長時期によって、草だけの給餌でも与える飼料を変えています。水分量の多いグラスサイレージを与えればやわらかい便になり、敷料(牛舎の下の敷き詰めた藁や木片)がすぐに汚れてしまうため、冬場の主な作業は牛舎の清掃と、牛糞の堆肥化作業とのことでした。
有機畜産物では飼育において、「予防目的での抗生物質も使用しない」ことも定められているため、飼料や牛舎の衛生環境を保つことにより、牛の健康を守っています。
牛舎の中で餌を食べる様子
増頭計画の成功により、牛の頭数が増えたため、排泄される牛糞の量も増えています。
訪問中にも次から次へと牛糞が運ばれてきていました。
牛舎から牛糞が運び込まれてくる様子
堆肥を撹拌する作業の様子
事故や死産の発生割合の減少により増頭に成功している有機北里八雲牛ですが、その出産はほとんど人が手出ししない自然分娩での出産です。3月は牛の繁殖期ということもあり、訪問当日の朝にも2頭、前日にも2頭が生まれたばかりでした。出産直後の母牛は子を守ろうと神経が立っているため、あまり刺激を与えないように注意されています。今回は、特別に母子の様子をそっと見せていただきました。
母牛と子牛が同じ空間で過ごす様子
一般的には、生まれた子牛は長くても1週間ほどで母牛と離されることが多いですが、有機北里八雲牛は、約6か月の間、自然哺乳(母牛の乳を直接飲むこと)で育ちます。それは、子牛に乳をいつでも飲みたいだけ飲んでもらって、大きく健康な牛になってもらいたいからです。草しか与えない有機北里八雲牛にとって、母乳は重要な栄養源です。母牛の出る時期にある程度飲んでもらうことで、大きく育ちます。
また、生まれたての子牛は下痢になりやすいとのこと。人の子供は母親から抗体をもらうため、病原菌への耐性を持ちますが、牛は初乳で初めて母牛から抗体をもらいます。そのため、慣行(一般)の飼養管理では病原体が引き起こす下痢によって死亡するケースもあるそうですが、八雲牧場では生まれてすぐ母乳を飲むため下痢で死亡することはないそうです。便の様子は日々の健康観察においても重要です。
月齢によって分けられている牛舎
通常、牛は1年1産です。子育ての上手な牛、いわゆる乳量が多い母牛は平均10歳くらいまで飼うこともあるそうです。10回の出産を経験するベテラン母牛もいます。それぞれの月齢に合わせて、入る牛舎が分けられています。出荷されるまでの間、牛舎内での転倒による事故や脱走などが起こらないよう、学生と牧場スタッフが少数精鋭で見守り、飼育管理しています。
穀物と牧草での飼料による肉質の違いももちろんありますが、季節によって肉質や重量も変化します。牧草だけで育つ有機北里八雲牛は、一般的な穀物飼料で育った牛肉よりも脂身が少なく、赤身が多いことが特徴です。
自然に近い状態でのびのびと育てるため、季節でも牛それぞれによって肉質が異なるのは当然のことです。工業的な生産ではないからこそ生まれる肉質や食味の差も「有機北里八雲牛らしさ」として味わっていただきたいです。
旨味を逃がさないよう、網ではなく鉄板で焼くのがおすすめです。ぜひ塩コショウだけで味付けし、肉の味を存分に味わってみてください。商品のお届けは冷凍のため、調理前の解凍方法も重要なポイントです。ピチットタイプのパッケージですので、急ぎの時は流水解凍できるのが便利です。ただ、時間に余裕がある時には、ステーキや焼肉用は袋から取り出し、冷凍のままトレイなどに乗せてゆっくり冷蔵解凍する方がよりおいしく召し上がっていただけます。
冷凍のまますぐに使えるバラ凍結で、少量ずつ使って保存もできるチャック付き袋で便利です。「北里八雲有機牛」をまずはお試ししたい方にもおすすめです。
今回は「有機北里八雲牛」の冬の様子を取材しましたが、放牧する夏の様子もぜひ見てみたいところです。2019年に行ったビオ・マルシェの宅配 オーガニックライブ2019では、牛舎から放牧地へと放たれる瞬間の映像も公開しています。小笠原先生に中継いただき、解説付きで「有機北里八雲牛」の様子が見られますので、是非動画でもご覧ください。
数量限定で希少な国産の有機牛ですが、その生産量は増えてきています。食べていただく方が一人でも増えることが、有機牛の生産を支えることに繋がります。ビオ・マルシェの宅配では、「有機北里八雲牛」を一頭丸ごと購入しています。特定の部位だけが売れ残らないように部位バランスを調整しながら販売することで、余すことなくお届けしています。環境に優しく、牛にも優しく、さらには食べる人にも嬉しい「有機北里八雲牛」。命を大事にいただくことで自然循環の一端を担えればと願います。
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