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2024.11.1
3月下旬、本みりん造り160年の歴史をもつ甘強酒造(愛知県)を訪問しました。訪問の目的は、年に3回程しか機会のない「有機本みりん」の仕込み見学です。甘強酒造の「有機本みりん」は、原料の国産有機米・有機もち米の生産依頼をはじめ、焼酎・米麴も一から手作りしたこだわりの逸品です。昔ながらの製法を用いて、美味しさを最大限に引き出す、甘強酒造ならではの仕込みの様子をお伝えします。また、みりんの種類の違いや、本みりんの活用方法についてもご紹介します。
甘強酒造は、創業1862年(文久2年)から本みりんの醸造に取り組んでいます。代々受け継がれてきた昔ながらの製法で仕込む本みりんは、時間も手間もかかります。そして、本みりん造りで最も重要とされる原料「もち米」の確保も大変苦労する点です。しかしながら、美味しさへの追求のため「本物のみりん」を造り続けています。
今回、仕込みを案内してくださったのは、7代目社長の山田さんです。
社名の通り、「甘み・旨みの強いみりんを作ることをモットーに手間ひまかけて製造しています」とにこやかにお話してくださいました。
甘強酒造がある愛知県蟹江町は水郷のまちとして知られ、4分の1が河川で占められています。昔は、河川を交通手段として利用していたこともあり、多くの蔵がありました。甘強酒造の蔵のそばにも川が流れており、昔は醤油蔵・味噌蔵を含む醸造蔵が30軒近くあったそうです。現在は、甘強酒造とあと1つの2軒だけになってしまいました。
江戸から昭和にかけて造られた甘強酒造の建物は、登録有形文化財建造物に登録されています。
仕込み作業が行われる蔵
いずれの建物も、蔵・作業場・事務所・住居として、現在も使われています。長い歴史の中で蔵に住み着いた菌は、美味しい「みりん」造りに欠かせません。
みりんの歴史は古く、造られ始めたのは、今から約400年前と言われています。
当時は高級な甘いお酒として飲用されており、調味料として使われるようになったのは江戸時代中期に入ってからです。
みりんは、家庭の調味料として普及し始めると共に、原料や製法にも変化が出てきました。そのため、みりんを含めて、みりんと呼ばれる調味料の種類が増えました。
昔ながらの伝統製法を用いて「もち米・米麹・焼酎」でじっくり熟成させる本みりんもあれば、そうでないものもあります。さらに、みりん風調味料・発酵調味料など、みりんの類似品もあります。
それぞれ4種類について、原材料・製法・塩分・アルコール分・酒税法の違いをご紹介します。
「本みりん」と名乗るためには米の使用量が決められています。お米以外の原材料はお米の重量の2.5倍以下と定められているため、約28%以上はお米を使う必要があります。
「有機本みりん」は伝統製法仕込みなので、有機もち米・有機米麹・有機米焼酎を使います。
今回は、有機もち米を蒸してから、有機米麹と有機米焼酎と一緒にタンクに仕込む様子を見学しました。
一般的には、海外産のお米を使うことが多いなか、甘強酒造の本みりん造りには国産のお米を使います。「国産有機」ともなれば、さらに貴重なものです。特に、最近は有機もち米の農家さんが年々減っており、原料の確保が大変とのこと。契約農家さんに社長も足を運んで関係を築き、栽培を依頼されているそうです。
時刻は、朝の7時半。前日から浸水していた有機もち米を圧力釜に移す作業を見学しました。1回の仕込みに使用する量は3tです。
有機もち米が浸水されているタンク
浸水した有機もち米
浸水用の大きなタンクの中には、長野県産の有機もち米が輝いていました。
粒の大きなもち米は甘みが強くしっかりとした味のみりんになります。
浸水後のもち米は、タンクの底から出し、ベルトコンベヤーで蒸米器に移されます。
浸水タンクからベルトコンベアーで圧力釜に移される様子
均等に蒸し上げるため、圧力釜に移された有機もち米を平らに均します。大きな釜に身を乗り出しての作業は、見た目以上に重労働のようです。
圧力釜に移された有機もち米を平らに均す様子
圧力釜に蓋をする様子
ネジを回して大きな釜の蓋をしっかりと閉めします。約50分間、大きな圧力釜で有機もち米を蒸し上げます。
50分後…
梯子で大きな釜によじ登り、圧力釜の蓋を慎重に開けます。
蒸し立ての湯気が立ち込める有機もち米
釜を傾けて蒸した有機もち米を移す
蒸気が立ち込めるなか、釜を傾けて、再びベルトコンベヤーの上に蒸した有機もち米を乗せて、25~30度になるまで放冷機で冷まし、次の工程へと移します。
放冷機で有機もち米を冷ましながら移動させている様子
麹菌の活動温度は30度前後。有機もち米が蒸し立てで温度が高すぎると、麹菌が死活してしまうため、冷ましながらレーンを移動させます。
冷ました有機もち米
仕込む前に、タンクで熟成させている有機米焼酎を見せていただきました。
米麹や米焼酎は他社で製造したものを使うことが多いですが、甘強酒造ではどちらも自社で一から手づくりしています。
すべての材料を自社で製造することは、手間も時間もかかることです。ですが、その分、有機米焼酎から副産物として生産される酒粕も有機米焼酎の発酵を促す材料として、再利用することができます。
有機米焼酎のもろみタンクの中
有機米焼酎を醸造しているタンクの中をのぞくと、酵母が活動しプクプクと泡立って発酵している様子が見えました。ここに酒粕を加えることで酵母の餌となります。
毎日もろみの様子を観察し、撹拌して空気も含ませることで、より酵母が活発に働きます。
有機米焼酎の醸造タンクをのぞき込む山田社長
仕込みから約2カ月で有機米焼酎が完成します。
蒸した有機もち米・有機米麹・有機米焼酎をタンクに仕込む工程です。
有機米で作られた米麹
米こうじは、蒸したうるち米の表面にカビの一種であるこうじ菌を植え付けます。こうじ菌の繁殖に最適な環境の温度約30度・湿度90%以上のこうじ室で手づくりしています。
有機米麹を入れる様子
有機米焼酎がホースで注入されている様子
有機もち米、有機米麹、有機米焼酎を混ぜ合わせた後、熟成用のホーローのタンクへ移します。
有機もち米、有機米麹、有機米焼酎がタンクに移される様子
タンクに入れて1~2週間は、有機もち米と有機米麹はタンクの底に沈んだ状態です。発酵が進むと徐々にお米が水面に上がってきます。発酵中はブツブツという音がします。
原料を入れたばかりのタンク
発酵が進んだタンク
日々、発酵の状態を観察しながら約2か月の熟成期間を経てできるのが「もろみ」です。もろみを圧搾機で搾ると、本みりんとみりん粕になります。
今回は搾る予定はなかったので、圧搾機だけ見せていただきました。甘強酒造には、2種類の圧搾機があります。1つ目は横から力を加えて搾るタイプの圧搾機です。搾った後はみりんとみりん粕に分離され、しっかりと搾られるのが特徴です。
圧搾機
2つめのは佐瀬式と呼ばれている伝統的な圧搾機です。もろみの重みを利用して自然の力で1日半かけてじっくりと搾られます。
佐瀬式圧搾機
圧搾してから、不純物や異物を取り除くためにろ過をします。ここでしっかりきれいなみりんになり、完成です。
自家製有機玄米焼酎の仕込み期間を含むと、半年がかりで造られる有機本みりん。時間をかけて醸すことで芳醇な香りと強い甘みが生まれます。
料理が苦手な方は料理上手に、料理上級者の方はさらに味わいがランクアップする調味料として、多くのご家庭で活躍してほしいです。海外では、低GI食品やヴィーガン食品としても注目を浴びつつあるそうで、その活躍の場はさらに広がっていきそうです。
甘強酒造のみりんの特長は、もち米や米麹から溶け出た天然成分により、アミノ酸の含有量が多いことです。このアミノ酸のおかげで、料理が一層美味しく仕上がります。
有機本みりんはアルコールを14度程含むため酒類に分類されます。酒類は、有機JAS法が制定されていないので、有機JASマークは付けられません。ただし、水以外の原材料は全て有機原料で造られた紛れもない「有機」本みりんです。
有機みりん風調味料は、有機本みりんに塩を加えた調味料です。米のまろやかな甘みと塩味が特徴です。塩を加えることにより酒類ではなく調味料として販売しています。
一般的な「みりん風調味料」は、糖液や醸造アルコールなどを加えて、いわゆる「みりんっぽく」造られた調味料を指していることも多いです。糖液などを加えることで、原材料のお米の量を減らし、仕込みも短期間で効率的に製造することができますが、お米由来の複雑でまろやかな甘みよりも、直接的な甘みになります。
みりんは砂糖の3分の1ほどの甘さです。また、甘さの種類が砂糖のような直接的ではなく、旨味があり複雑で控えめです。砂糖を控える隠し味として、お菓子作りや出汁巻玉子はもちろん、カレーや豚汁の隠し味にも使えます。また、照りやツヤを与えたり、煮崩れを防いだり、生臭さを持つ素材の臭みを消してくれるなど、見た目にも味にも大事な役割を果たしてくれます。
本みりんは常温で保存してください。冷蔵庫に入れてしまったり、保管温度が低すぎると糖分が固まってが蓋が開かなくなることがあります。蓋が固まって開かなくなってしまった場合は、湯煎することで開栓できます。