和歌山県有田郡の平飼い養鶏場「蒼生舎」を訪問してきました
2024.11.19
4月中旬、熊本県宇城市で有機トマトや有機柑橘類を作る肥後あゆみの会を訪問しました。代表の澤村さんは有機栽培でトマトを作り続けて約30年。この道のプロフェッショナルであり、今では多くの若手生産者さんにとって師匠的な存在です。
今回は、澤村さんの有機栽培にかける想いと、それを受け継ぐ次世代の若手生産者の方々にスポットを当ててお話を伺いました。
阿蘇熊本空港から車に揺られて約1時間。九州地方のちょうど真ん中に位置する熊本県宇城市に到着しました。
不知火海に面する宇城市はミネラルに富んだ土壌と海からの反射光がトマト・柑橘の栽培にぴったりの場所です。雨が多く天候が心配でしたが、この日は暖かな日差しと海風がとても心地よく、気候にも恵まれました。
迎えてくださったのは、澤村さんと若手生産者(守屋さん、角心さん、坂田さん)の皆さんです。
奥左:守屋さん 奥中央:角心さん 奥右:坂田さん 手前:澤村さん
肥後あゆみの会の看板
代表の澤村さんが有機農業を志したのは25歳の頃。それから同じ志を持った仲間と歩み、40歳の頃に2名の野菜農家さん、4名の柑橘農家さんとともに肥後あゆみの会を結成されました。肥後あゆみの会は、「肥後(熊本)で一歩一歩あゆみを進める。」という意味を込めて名付けたそうです。
創業当初は、慣行栽培と有機栽培で野菜・柑橘類を栽培していました。しかし、その頃に社会問題となっていた水俣病などの公害病をきっかけに、肥後あゆみの会でも有機栽培への意識が高まりました。その後、有機JAS法が制定されて2年後の2002年に有機JAS認証を取得しました。
当初、宇城市にしかなかった圃場も面積を拡大し、今や八代市・阿蘇市など熊本県内に点在しています。
トマトは化学合成された農薬・肥料を使わずに安定的に生産するのがとても難しい野菜です。長年かけて試行錯誤を繰り返してきましたが、自信を持って有機トマトを出荷できるようになったのはここ2~3年のことだそうです。
澤村さんは「この経験と技術を次世代に残したい。」との想いから、熊本県有機農業研究会と連携して講習会や研修制度を行い、有機栽培を熊本県内に普及させる取り組みもされています。その甲斐もあってか、有機JAS認証を取得している生産者の数は、北海道・鹿児島県に次いで熊本県が多いです。
出典:県別有機認証事業者数(令和2年3月31日現在)-農林水産省
澤村さんと角心さん
有機農業を長年経験し、生産者を育ててきた澤村さんにこそ聞いてみたい、そんな質問をしてみました。
安心して食べられる美味しい作物を作ってほしい。
生産者である自分たちが安心し、食べたら笑顔になるような野菜を作ることが一番の目標です。
一人でやらないこと。
夫婦や仲間たちとともに農業を営み、よく話し、研究することで辛い時もうまくいった時も分かち合うことができます。
自分で考えさせること。
同じように教えても、人によって受け取り方は様々。何を作りたいのか?どれくらい作りたいのか?など考えさせることを大切にしています。
左:守屋さん 中央:角心さん 右:坂田さん
肥後あゆみの会の組合員として近年独立し、有機トマトや有機スナップエンドウなどを栽培している若手生産者の皆さんにもお話を伺いました。皆さん、農業をされる以前は飲食業や建設業など様々な世界で活躍されていました。「自分の子供に食べさせるものは安心できるものにしたい」、「肥料も含めて自分で作ったものを使用して農業がやりたい」など、有機農業に興味を持たれたきっかけは食の安全性でした。
その後、澤村さんと出会い、研修を経て、独立されました。
若手生産者の皆さんに、澤村さんや肥後あゆみの会について、いくつか質問してみました。
いつも作物のことを考えている。どうやったらより品質良く、収量を増やすことができるかをいつも考え、トマトのハウスや加工場にいる時間もとっても長いんです。
なんでも教えてくれる。私たちが何か尋ねたり、悩んでいたりしても、長年培ってきた知識や技術を惜しみなく伝授してくれます。
「とりあえずやってみたらいい。」農業技術は言葉だけでは伝わらないことも多い。とりあえずやってみて成功しようが失敗しようがその後に活きる、とよく言われます。
「地元のものを使うということ。」河川敷の野草や裏山に生えているたけのこなど、地元の素材を肥料として作物に与えることで、その土地のエネルギーで育つと教わります。
「意見交換しながら自由に研究できる。」自分がやりたい新たな栽培方法や取り組みにどんどんチャレンジしていくことができ、澤村さんや他の生産者と意見交換することでより良いものを目指すことができる土壌があると思います。
この日、澤村さんたちに案内していただいたのは、出荷を控える有機トマトのハウスでした。
膝下ほどの高さには、こぶし大まで丸々と太った有機トマトがたくさん。このハウスのトマトはまだ緑色をしていますが、あと1週間~10日ほどで色付き、最盛期を迎えるようです。
ハウスを見渡すと、所々にピンク色の花をつけている植物が見られました。
クレオメの花
澤村さんに尋ねたところ、クレオメという植物であり、トマトの栽培に一役買っているそう。
近年タバココナジラミ(害虫)によって発生する黄化葉巻病が流行っています。この対策のためタバココナジラミの天敵であるタバコカスミカメ(益虫)が好むクレオメをハウス内で栽培することで間接的に黄化葉巻病の防除に取り組んでいます。化学合成された農薬を使わず、病害虫からトマトを守るための工夫の一つです。
ここからは、澤村さんが長年かけて研究し続けている堆肥と肥料を見せていただけることに。
まず案内していただいたのは野草堆肥の堆積場。
野草堆肥の山
茶色い山のように見えるのは、近隣の河川敷を手入れする際に刈り取った野草を積み上げてできた堆肥です。重機を使って切り返しながら3年間の月日をかけて微生物の力で分解されます。1年目~3年目の野草堆肥を比べてみると一目瞭然。3年目の野草堆肥は、土のような見た目になっていました。
左:1年目 中央:2年目 右:3年目
作物を植える前にこの堆肥を畑に加えて耕すと、病害虫の減少や連作障害(同種または近縁の植物を同じ場所で繰り返し栽培すると,次第に生育不良となること)の防止に効果があるそうです。
続いてぼかし肥料を見せていただくことに。
ぼかし肥料
肥後あゆみの会のぼかし肥料は、魚粉・昆布・牡蠣殻に米ぬかや油粕・赤土を混ぜ合わせ、土着微生物を加えて約1か月間発酵させて完成します。澤村さんによると、ぼかし肥料は野菜にとってのごはん。良いぼかし肥料が良い野菜づくりにつながるとのこと。
ぼかし肥料作りにおいて澤村さんがこだわり続けていることは「いかに良い発酵条件を作れるか」。ぼかし肥料は堆積している環境の温度や湿度、風通しなどにより発酵の良し悪しが決まります。条件が悪い場所では、せっかくの肥料が腐敗してしまうことも。長年、場所を変えながら研究し続け、最高の肥料作りを目指しています。
最後は、天恵緑汁の保管庫を案内していただきました。
色々な種類の天恵緑汁
天恵緑汁とは、タケノコやトマトの芽・海藻など、その季節ごとに地域で採れる自然の材料を黒糖や玄米酢などと混ぜ、発酵させた液体肥料です。
天恵緑汁は、栽培中の野菜に与えることで樹勢(樹木の生育状態)を高めるなど、作物に活力を与える効果が期待できます。
トマトの芽で作った天恵緑汁
実際にトマトの芽で作った天恵緑汁を舐めてみると、ほんのりトマトの味がして、力がみなぎってくるように感じます。
野草堆肥と澤村さん
「この肥料を作るのに10年以上かかったとよ!!」と話す澤村さん。
地元で手に入る材料に着目し、できる限り自然の力を借りて作る自家製肥料と堆肥は今もなお進化し続けています。
左から:中川さん 倉富さん 河野さんご夫婦
肥後あゆみの会では、今回紹介した野菜以外にも有機みかんや有機グレープフルーツなど様々なオーガニックの柑橘類も栽培しています。長年この地で柑橘類を栽培されている3名の生産者に加え、2020年には新たに20代のご夫婦も就農。野菜同様に技術、知識を引き継いでより良い柑橘作りに励んでおられます。
「街を耕す八百屋」としてスタートしたビオ・マルシェ。有機契約農家さんの数も、今では全国約300件まで広がっています。
農業生産による環境への負荷をできる限り低減し、環境や多様性に富む生きものとの調和性を大切にする。有機農業を通じて、持続的に農作物を作り続けられることができる大地を守り、豊かな環境を未来の子供たちに残していきたいと考えています。
ビオ・マルシェの畑を訪ねてでは、全国各地の生産者の有機農業への想いや畑の「今」を、他にもたくさんご紹介しています。